現在、NHK「連続テレビ小説」では、日本で初めて法曹界に入った女性を主人公とするドラマが放送されています。
主人公とその友人たちが、法学部で圧倒的少数派の女子学生として苦戦する姿が話題となり、注目を集めています。
さて、現代の大学はどうでしょうか?
近年、「世界的に見て、東京大学に女子が少ない」「理系学部の女子が少ない」というトピックは、世間でも話題になっています。
実際に、東京大学の学生の男女比はどのぐらいなのでしょうか?
令和2年度5月1日時点の学生は、およそ20%が女性、残り80%が男性とのこと。(教員の比率もほぼ同様です。)
これは解消すべき問題であると、農学部男女共同参画推進室の田野井先生は語ります。
しかし、農学部においては、女子学生の割合は、他の理系学部と比較して、少し高くなるとのこと。
今回ご紹介するのは、オープンキャンパスにて、農学部が女子中学生・女子高校生に向けて開催した講義「講演:農学系女子最前線 〜農学部って何を学ぶところ? 卒業後はどんな仕事に就くの?~」です。
かつて東京大学の農学部で実際に学んだ女性の卒業生が登壇し、ご自身の研究分野・卒業後の進路などを紹介します。
皆さん、それぞれ、かなり具体的な体験談を話してくださるので、これから進学を考える人にとっては、とても参考になることでしょう。
(もちろん、女性以外の方にも楽しんでいただける内容となっております!)
農学部とは?
まずは、田野井先生による農学部全体の紹介です。
農学は、生産・生物・環境・水産・森林・生物材料科学・獣医学・食品など、実に幅広い分野を有しており、非常に面白い学問です。
まだはっきりとやりたいことを絞り切れていない人、広く様々な範囲を学びたい人にも、とても向いている学部です。
特に、東京大学の農学部は東日本を中心に演習林など多彩なフィールドを所有しており、それも魅力の一つとなっています。
ちなみに、就職・大学院への進学に関しては、統計上は男女差はほとんどないようです。
つまり、女子の皆さんも、入ってしまえば怖くない、ということが言えるかもしれません!
続いては、登壇者の皆さんのプレゼンテーションです。
皆さん、三者三様のご経歴です。
特許庁 三吉さん
三吉さんが学生時代に農学部を選択したのは、なんでも幅広くいろんなものを学べるところに魅力を感じたから。
学部の授業では、実験の基礎をしっかりと学ぶことができました。
そして、食品科学研究室での研究を通し、もっと研究したいと思うようになり、大学院の修士課程に進みました。
卒業後は、特許庁へ。
農学とは全く違う分野で、法律や語学の学習が必要となりましたが、特許は技術・産業の発展に関わる大事なお仕事で、いつも最先端の技術に触れられる、「研究」にとても近しい世界なのです。
そして、省庁の中では珍しく、女性にとって働きやすい、「ホワイト企業ランキング」トップ10に入る職場だそうです。
第一三共株式会社 小林さん
自称「Twitter廃人」の小林さんは、東日本大震災の際、旧Twitter(現X)上で放射能に関するデマが蔓延したり、デマと戦う研究者たちが登場したりするのを目の当たりにして、科学に興味を抱いたそうです。
学生時代は、植物の耐塩性機構の研究をしていました。
通常、塩分の多い土では植物は育たない、または枯れてしまうと考えられますが、ハルビンの塩分を多く含んだ土地では、青々と育つ草原が見られるそうです。
それらの植物は、一体どうやってその土地で育っているのか。
在学中に、その謎の全てを解明することはできなかったそうです。
いつか、これを読んでいる皆さんの中から、東大の農学部でこの謎を解明する人が出て来るかもしれません。
就活では、博士課程での粘り強さが評価され、現在では、薬品会社で医薬品の有効成分を探す研究をしています。
薬の有効成分は、1人の研究者が生涯に1つ見付けられるかどうか、といった大変難しい分野です。
粘り強さが必要だというのも頷けます。
小林さんのお話には、パンチのある名言が盛りだくさんで、もう既に大人になった皆さんの心にも響くものばかりでした。
- 好きなことを一日中勉強できる身分って基本的に大学生だけ
- 就職は、運
- アカデミアに残るのはプロ野球選手になるようなもの
- いろんな人がいろんなアドバイスを言うが、自分で責任をとる
- SNSや(研究所や博物館主催の)イベントで、実際に研究者に出会おう!
経済産業省 長山さん
最後に、3人の中では最も社会人経験が長い、長山さん。
出産や子育ても経験されています。
長山さんは、子どもの頃から地球温暖化や酸性雨などの環境問題に興味を持っていました。
理系の中でも、実験器具などを扱う細かい作業より、フィールドに出てみたいと考え、農学部に。
就職後に修士号を取り、現在は環境分野の政策など、政府全体の戦略作りをされています。
もしかしたら、お三方の中で、最も「在学中の研究分野に近い分野のお仕事に就いた方」と言えるかもしれません。
高校時代のお話は、首都圏ではない地域から東大の受験を考えている方の参考になるでしょう。
後半はみんなで座談会
後半は、現役の女子学生も加わり、斎藤幸恵先生の進行で座談会が行われます。
研究の動機、進路選択の経緯など、テーマに沿って実体験を語ってくださいます。
参加した中高生からの質問にお答えする時間もあります。
- 高校は女子校だった? 共学だった?
- どうして理系を選んだの?
- アルバイトなどをする時間はある?
- 地方からの女子の東大受験はどんな感じ?
- 数学や物理が苦手でも農学部に入れる?
皆さんのバラエティ豊かな回答など、詳細は、ぜひ動画でお聞きになってください!
まとめ
全編を通して見て、筆者が抱いた感想です。
この講義は、これから進路選択をする中高生にとってはもちろんのことですが、就活や大学院への進学を控えている学生、転職や学び直しを考えている大人など、全ての方にとって刺激・励みになる言葉の宝庫だと感じました。
- 決して、学部や院で学んだこと100%をその先の進路で活かし切る必要はないのだということ
- 人の人生は流動的で、その時その時の選択で、居場所や興味関心が変わっていくものだということ
- 経験したことは何も無駄にはならないということ
そんなメッセージが詰まっていました。
そして、全く関係ない私も、今から農学部に入りたくなってしまうほど、楽しそうだなぁと感じました。
これからは、農学・理系学問を学ぶ女性が、もっともっと増えていくことでしょう!
そこのあなたが、明日の農学部学生かもしれません!
さて、改めまして、今回の講義タイトルは、「講演:農学系女子最前線」です。
実際の動画は、オンライン開催した講義の録画であるため、(ウェブ会議システムの性質として)一部、音声が途切れ途切れになっている箇所・音声が歪んで聞き取りにくい箇所・登壇者の映像が固まって見える箇所がありますので、予めご了承ください。
そして、こちらの講演会は、2020年度「高校生のための東京大学オープンキャンパス」の一部です。
このページには、農学部の他の模擬授業や説明会などが複数掲載されていますので、ご興味を持たれた方は、ぜひ併せてご覧ください!
また、かつてUTokyo OCWの動画紹介コラム「だいふくちゃん通信」では、なぜ理系に女性が少ないのかというテーマの記事をお届けしました。
関連記事として、ご興味のある方におすすめいたします。
<文・加藤なほ>
今回紹介した講義:高校生のための東京大学オープンキャンパス 講演:農学系女子最前線 三吉翔子先生、小林紫緒先生、長山美由貴先生
●他の講義紹介記事はこちらから読むことができます。