暑い日が続いています。こんな時期に食べたくなるのがうなぎ。
今年の土用丑の日(一の丑)は7月24日だそうで、もうすぐです。
日本で伝統的に愛されてきたうなぎですが、絶滅の危機にあり値段も高いため、気安く食べることは難しいですよね。
とはいえ先日、水産庁の報告会が開かれ、ウナギの完全養殖(人工シラスウナギを親魚まで育て、その親魚から得た卵をふ化させる養殖)のコストが大きく下がっているという発表がありました。もしかすると完全養殖のウナギが我々の身近になる日が近いのかもしれません。
ということで今回は、ウナギがなぜ貴重になっているのか、そしてどのような取り組みがなされているのか、などウナギのあれこれを知ることができるシンポジウム「うな丼の未来Ⅱ」を紹介します。先ほど紹介した完全養殖についての話もありますので、ぜひ最後までご覧ください!
※このシンポジウムは2014年に行われたものです。現在とは状況が一部異なることもあるかと思いますので、ご留意ください。
基調講演:ニホンウナギを守る
初めに紹介するのは九州大学の望岡先生による基調講演です。
この講演ではウナギ資源の減少とその要因、そして中期的要因に対する取り組みが紹介されます。
まず、ニホンウナギの減少要因を大きく「短期的要因」「中期的要因」「長期的要因」に分けて考えます。
短期的要因としては、海洋環境の変動や産卵時期のずれにより仔魚の死亡率が増加したり、産卵地点の南下や海流の分岐位置の北上により東アジアにやってくるシラスウナギの数が減少したりといった理由が考えられます。
中期的要因には、過度な漁獲や生息場所の減少などがあり、さらに長期的な要因としては、長期的な地球・海洋環境の変動に対する生活特性や分布域の適応的変化などが挙げられます。
では、その中でも中期的要因に対する取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。
講演では「河川・沿岸のウナギ保護」「河川・沿岸環境の保全・再生」「放流技術の改良」の3つに分けて取り組みが紹介されますが、ここでは「河川・沿岸環境の保全・再生」について簡単に紹介します。
親ウナギの回遊履歴を分析すると、7割のウナギが淡水域で生息していた履歴を持っていることがわかりました。そのため、汽水域を中心に川(淡水域)全体を保全することが重要であるといえます。
また、様々な研究から、成長期のニホンウナギの生活型についても詳しくわかるようになりました。稚魚であるシラスウナギが一度淡水域に入ってから、5年から10年ほどたって海に戻り産卵を行ったり、淡水域と汽水域を往復したりするなど複数の生活型があることが分かっています。
ここで現在の河川の状況と照らし合わせてみると、下の画像の青で示された部分のように、護岸により住処が減少したり、河川を横断するような人工物や、河川の支流に田んぼに水を引く堰が設置されたりしており、ニホンウナギの生息や生息域拡大の障害となっています。
そこで、西日本を中心に伝統的な漁法である石倉漁にヒントを得て、土木工法の蛇篭と組み合わせることで、ウナギと餌生物の生息場所を作る取り組みが行われます。
ウナギのための石倉は汽水域に設置するため、錆びない素材で作ったり、鳥に食べられないよう穴のサイズを調整したりといった工夫が行われました。
石倉は2013年に鹿児島県南部を流れる川に設置され、モニタリングが行われました。設置から約1年が経った、講演直前のモニタリングでは、石倉から40個体のウナギとエビやカニなどの生物が確認されました。つまり石倉がこれらの生物の住処になったんですね~
それまで難しかった汽水域のモニタリングですが、石倉を全国各地に設置し、モニタリングを行うことで、川の健康度を測る物差しにもなると望岡先生はおっしゃっています。
(その後、実際日本各地に石倉が設置されたようです、ぜひ調べてみてください!)
人工種苗量産への取り組み
続いて紹介するのは、人工的にウナギを量産する取り組みです。
まずは人工種苗量産の歴史を見てみましょう。
1996年にサメ卵飼料が考案されたことが、人工種苗量産に向けた大きな足掛かりになったそうです。その後サメ卵飼料が改良されてレプトセファルスまで飼育できるようになり、さらにシラスウナギまで飼育できるようになりました。
そして2010年、完全養殖に成功します。
とはいえ、完全養殖ができても、我々のもとに届くようになる大量生産とは全くの別物だそうで、量産には様々な課題があり、その後も研究が進められます。
詳しくは講演で紹介されているのでぜひ実際に見ていただきたいと思いますが、生物以外の分野の力も取り入れているのが一つの特徴だと言えるでしょう。
電子工学的な技術でウナギの成熟誘導ホルモンを利用して成長させたり、大量生産システムの実証事業で「工学等異分野の技術導入による種苗量産の問題点の解決」が挙げられていたりと工学とも強い関りがあるといえます。
そしてこれらの努力が結実し、冒頭で触れたように量産コストの低減に繋がったのですね。ここ10年の間にも様々な人が努力してきたのだということがよく分かり、尊敬の念に堪えません。
さて、講演の最後には「人工種苗の量産化はいつ頃できるのか」という疑問が挙げられます。
2024年現在も量産化・商品化には至っていませんが、講演当時からコストが大きく下がり実用化に近づいています。
完全養殖ウナギが我々の生活の一部になる日が来るかもしれないと思うと、今後の研究にも目が離せませんね。
うなぎを食べながら守るということ
さて、次はうなぎを販売する業界からのお話として、パルシステムの取り組みを紹介します。
パルシステムは生協の事業連合の一つで、1都9県食品をはじめ様々な生活用品の宅配を行っています。
消費者と生産者両方に寄り添うパルシステムは、土用丑の日の時期にキャンペーンを行い、単に値段を下げるだけではなく、取り扱ううなぎの良さや違いを伝えているそうです。
そんなパルシステムが扱っているのが、大隅地区養まん漁業協同組合のうなぎです。
パルシステムが大隅産うなぎを扱う理由の一つが、組合員の意見を反映することができる点にあります。
例えば、うなぎは匂いが気になることが多く、組合員からうなぎの匂いに対し様々な意見が寄せられました。それを受け、4回の匂い検査を実施するようになります。
また、パックのロット番号から生産者・養殖池がわかり、生産履歴を追うことができます。
このように、組合員が安心して食べられるよう、大隅産のうなぎが販売されているのです。
しかし、2013年にうなぎが絶滅危惧種に指定されると、組合員からはうなぎを食べていいのかという不安の声が寄せられます。
そこでパルシステムは水産庁や大学の研究者を招いて学習会を行い、資源回復に向け様々な取り組みを行います。
大隅地区養まん漁業協同組合と協力して資源回復協議会を設立し、支援金を集めたり、産地研修や試食学習会により、組合員や配送員に対してうなぎを取り巻く環境を伝える取り組みを行ってきたりしました。
中でも、7月のキャンペーンの売り上げの一部やパルシステムのポイントを利用したカンパによって集めた支援金は、初年度の2013年に717万円にも上りました。
小売り・流通業界としては、商品管理を徹底できる、あるいはそこに前向きに取り組める産地と提携し、販売量をコントロールしたり、適正価格で販売することで薄利多売を避けたりすることが重要なんだそうです。
講演ではパルシステムの取り組みや大隅地区養まん漁業協同組合との深い関係性についてより詳しく紹介されているので、ぜひご覧ください。東日本大震災にもその関係性が活かされた話は、個人的に興味深かったです。
ウナギの資源管理について
最後に、行政の取り組みとして水産庁による資源管理について簡単に紹介します。
同じく貴重な水産資源であるマグロは、国連海洋法上、関係国が共同で管理することが義務付けられているのに対し、ウナギは生息国が管理責任を負っています。
国内における資源管理としては、まずは稚魚であるシラスウナギの採捕の管理が重要です。採捕期間の短縮や採捕数の上限の設定が行われたり、採捕量や出荷数量の報告が義務付けられたりして、シラスウナギの管理が行われています。
また、養殖業の管理では、内水面漁業振興法に基づく指定養殖業許可制度の導入などが行われました。これは簡単に言えば、それまで私有地で行われる養鰻事業に対しては制限をするのが難しかったのを、指定養殖業とすることで、私有地で行う場合も許可がいるようにし、管理しやすくしたということです。
また、国際的な資源管理も重要となります。こちらについてはぜひ、講演を実際に聞いてみてください。
おわりに
さて、今回は研究者、小売り・流通、行政など様々な立場による、ウナギを守るための取り組みが説明された講演をご紹介しました。大学の先生だけでなく、こうした様々な視点での講演を聞くことができるのも、東大TVの良いところですね。
また、冒頭でも紹介したように、このシンポジウムは2014年に行われたもので、そこから10年たった現在では、完全養殖のコストが大きく削減されるなど、変わっていることもあります。ぜひ講演で紹介されている取り組みがその後どうなったのか、ご自身で調べてみてはいかがでしょうか。こうした変化を学ぶきっかけになるのも東大TVの良いところです。
このシンポジウムでは今回紹介した4つの講演以外にも、様々な立場の方からのお話を聞くことができます。
ぜひ、日本のウナギについて学び、考える機会にしてみてください。
<文/おおさわ(東京大学学生サポーター)>
今回紹介した講義:シンポジウム「うな丼の未来II」
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