花はどう咲くのか(2023年度 高校生と大学生のための金曜特別講座「季節に応じて植物が花を咲かせるしくみ」阿部 光知先生)
2025/11/20

春になるとお花見に出かけたり、道端に咲く草花にふと目を向けたり…。花は私たちの日常生活の中でごく当たり前の存在ですが、「そもそも、なぜ植物は花を咲かせるのか?」「どのような仕組みで花が咲くのか?」とあらためて問われると、はっきり説明できる人は少ないのではないでしょうか。

今回ご紹介するのは、2023年度「高校生と大学生のための金曜特別講座」から、「季節に応じて植物が花を咲かせるしくみ」。本講義では生物学者の阿部光知先生が、なぜ植物は花を咲かせているのか?花はどのような仕組みで咲くのか?を学問的な観点から解説していきます。

花が咲くことは当たり前?

「台風の後や秋の暖かい日に桜が狂い咲きした」というニュースを見聞きしたことがあるかもしれません。春に咲くはずの桜が別の季節に咲くと「異常」とされるのは、植物が毎年決まった時期に花を咲かせる仕組みを持っているからです。

私たちが日常的に見る「花が咲く」という現象と、生物学的に捉える「花が咲く」という現象がどう違うのか、この講義を通じて考えてみましょう。

花が咲く仕組みを研究する分子遺伝学とは

まずは、花が咲く仕組みを理解するうえで重要な分子遺伝学について、その歩みを辿ってみましょう。

分子遺伝学という言葉を聞いて、多くの人が思い浮かべるのはメンデルです。およそ150年前、メンデルはエンドウマメの観察から親から子へと伝わる形質の法則性を見出し、これが「遺伝子」という概念の確立につながりました。

実は、日本でも、江戸時代には変わった色のアサガオを収集し、園芸として楽しむ文化が根付いていました。こうした形態の変化はどう受け継がれるのか、人々は昔から強い関心を抱いてきたのです。

やがて20世紀に入り、遺伝の実体がDNAであることが明らかになりました。これは70年ほど前のことです。以来、遺伝現象は分子レベルで理解できるようになり、大腸菌のような単細胞生物を対象とした研究が進みました。ただし、その時点ではアサガオや人間のように複雑な多細胞生物の仕組みに迫ることは容易ではありませんでした。

ところが現在では、ゲノムの抽出や解読、さらには改変技術の進歩によって、花が咲く現象に大きく関わる「発生」という高次の現象を研究対象にすることが可能になりました。分子遺伝学は根本的に「親から子へと受け継がれる形質がどのように遺伝子と結びついているのか」を解き明かす学問であり、植物研究にも大きな役割を果たしています。

植物の発生は「積み重ね構造」

次に注目するのは、「植物の体がどのように形づくられていくのか」という発生の仕組みです。

高校の教科書には、植物の茎頂分裂組織(茎頂メリステム)が細胞分裂の中心であると記されているかと思います。地上部の細胞はすべてここから生まれ、分化し、複雑な形をつくり上げていくため、植物の発生において極めて重要なものです。

植物の発生の大きな特徴は「積み重ね構造」です。植物は細胞を積み重ね、さらに「ファイトマー」と呼ばれる単位を積み重ねて体をつくります。ファイトマーは、①茎、②葉、③葉の付け根にある分裂組織の3要素から構成されており、このサイズや活性が変化することで多様な形が生じます。

さらに、植物の地上部は時間軸に沿って積み重なるため、下にある組織は古く、上に行くほど新しいというように、時間の流れが構造に刻まれていくことも覚えておいてください。

ファイトマーの転換が花を生み出す

UTokyo Online Education 高校生と大学生のための金曜特別講座 2023 阿部光知

発生の基本構造を理解したところで、「花」がどのように現れるかを見ていきましょう。アブラナ科のシロイヌナズナを例にすると、最初は「ロゼット葉」をつくるファイトマーが積み重なります。茎が短く、葉が大きく、分裂組織は休眠しているのが特徴です。一見同じところから出ているように見える葉っぱですが、実はタイミングの異なるファイトマーが積み重なってできているものなのです。

その後、枝や茎をつくるファイトマーが形成されます。こちらは茎が長く、葉が小さく、やはり分裂組織は休眠しています。そしてそれが積み重なっていくと、花のファイトマーが出現します。花のファイトマーは茎が短く、葉はほとんど確認できず、分裂組織が活性化している点が特徴的です。

栄養器官として機能するロゼット葉や枝のファイトマーに対し、花のファイトマーは生殖器官です。この切り替えは、発生の過程で非常に大きな転換点であり、これは植物特有の現象であるといえます。

動物と植物の違い

では、なぜ花を咲かせることが「劇的な転換」といえるのでしょうか。その理解を深めるために、動物と植物の生殖系列を比較してみます。動物と植物の細胞は非常に大雑把に2種類に分けることができます。一つは自分の個体を構成している体細胞の系列で、もう一つは次世代に対して影響を及ぼす生殖細胞の系列です。

UTokyo Online Education 高校生と大学生のための金曜特別講座 2023 阿部光知

動物では、受精後わずか1週間から10日で生殖細胞系列の運命が決まります。つまり発生の初期段階で「次世代をつくる細胞」が早々に区別されます。

一方、植物ではしばらく生殖細胞系列が存在せず、体細胞として成長を続けます。葉から種が採れないのはこのためです。やがてある時点で新たに生殖細胞系列が生み出されます。これが花成であり、植物特有のダイナミックな現象なのです。

まとめ

本記事では、花が咲く仕組みを理解するために必要な分子遺伝学の考え方や、花成が植物発生においていかに劇的な変化であるかを説明しました。

花が咲くタイミングをどのように調整しているのか、その研究成果が栽培にどう応用されているのか、講義動画ではさらに詳しい解説が行われています。また、阿部先生が研究者を志すに至った経緯なども紹介されています。

普段何気なく目にしている「花」が、どのような仕組みに支えられているのかを知ると、自然を見る目が少し変わるかもしれません。植物の奥深い世界に触れてみたい方は、ぜひ講義動画をご覧ください。

<文/RF(東京大学学生サポーター)>


今回紹介した講義:2023年度:高校生と大学生のための金曜特別講座 季節に応じて植物が花を咲かせるしくみ 阿部光知先生

他の講義紹介記事はこちらから読むことができます。