【記憶を未来につなぐ】地図上に「災いの記憶」をデジタルアーカイブするということ
2024/10/04

みなさんは、SNSやテレビなどのメディアで、原子爆弾によって崩れた長崎の浦上天主堂や爆風で折れ曲がった十字架など、第二次世界大戦の頃の写真をカラー化したものをご覧になったことはありますか。
70年以上前の戦争は、白黒の写真で見せられると「昔のこと」としてどこか縁遠く感じられる出来事ですが、色付けされることによって、私たちと同じように日常を生きていた人たちの姿、そしてその人たちが見ていた風景がありありと見え、急に身近に、且つリアリティを持って感じられるような気がします。

東京大学大学院情報学環教授の渡邉英徳先生は、AI等を利用した写真のカラー化や、多くの情報をバーチャルリアリティ上に収集・蓄積するデジタルアーカイブ化の活動を通して、戦災・自然災害など「災いの記憶」を私たちに届けてくれます。

UTokyo Online Education 記憶を未来につなぐデジタルアーカイブ Copyright 2021, 渡邉 英徳

今回ご紹介する講義では、渡邉先生の活動の一部を、実際のページを見ながら、詳しく解説しています。
比較的短めで、中学生・高校生などを含め、専門的な知識が無くてもどなたでも簡単に理解できる内容なので、とてもおすすめです。

このコラムでは、概要をご紹介いたします。

この講義で紹介されるプロジェクト

講義内では、渡邉先生が主宰する研究・プロジェクトとして、次のようなものが紹介されます。
いずれも一般公開されているウェブサイトで、皆さんも簡単にアクセスできるものなので、先生の講義を聴きながら、ご自身でもご覧になってみてください。

『ヒロシマ・アーカイブ』
https://hiroshima.mapping.jp/index_jp.html

広島市の地図の上に、赤い玉が浮かんでおり、これは、1945年8月6日、広島市に原子爆弾が投下された爆心地の上空を表しています。
地図上に浮かんでいる丸いアイコンは、当該時刻にその場所にいた人々のお写真で、クリックすると証言やエピソードを読むことができます。
また、四角い風景写真は、過去に撮影された広島市内の建物や道などの写真で、現在の同じ場所の様子と比較することができます。

『沖縄戦アーカイブ〜戦世からぬ伝言』
https://okinawa.mapping.jp

1945年の沖縄の地上戦の様子を、沖縄県の地図上に表したものです。
白い矢印が男性、赤い矢印が女性・子ども・老人など非戦闘員とされる人たちの個々の動線を表しており、日数の経過とともに移動する様子を辿ることができます。

『忘れない 震災遺族10年の軌跡』
https://iwate10years.archiving.jp

東北地方の地図上に、東日本大震災で亡くなった方の最後の行動の動線が表されています。
もう一度改めて申し上げると、残念ながら、矢印は全て、亡くなった方の記録です。
つまり、彼らがどういった避難行動を取ったのか、または避難行動を取らなかった(もしくは何らかの事情で取れなかった)といったことが見えてきます。
その後、ご遺族の方の10年間の移動、すなわち、仮設住宅への入居や転居の繰り返しなどの軌跡も記録されます。

『東日本大震災アーカイブ』
https://shinsai.mapping.jp/index_jp.html

2011年3月11日に、東日本大震災が起きて直後からしばらくの間のTwitter(現X)の投稿を地図上に表示しています。
どこにいる人が、その当時、その場所でどんなことを考えたのか、その記憶を短い文章の形で焼き付けたものと言えるでしょう。

どんなことが見えてくる?

これらの記録・記憶の集合からは、どんなことが見えてくるでしょうか。

もちろん、今までも、災いを経験した人の手記を読んだり、ドキュメンタリー番組で証言を聞いたり、写真を見たりと、断片的な情報に触れる機会はたくさんあり、その体験はとても大事なものです。
しかし、これらのデジタルアーカイブの新しい点・強みになる点は、今まで見えていなかった全体像や実態など、新たな側面を視覚的に認識できるところです。
講義の中では、沖縄戦の当時の状況についても、東日本大震災についても、我々がニュースやドキュメンタリーで見知った情報からなんとなく思い描いてたイメージとは、また違った事実がいくつも示されていました。
私たちが平和や防災について考える際、過去の被害の実態を正確に把握することが必要です。

また、膨大なデータの収集は、東京大学の研究チームだけでなく、広島女学院高等学校の学生たちや岩手日報など、地元に根差した人たちの努力、そしてもちろん、それを残したいと願う遺族の方々の思いなどがあってこそ成立しているそうです。

UTokyo Online Education 記憶を未来につなぐデジタルアーカイブ Copyright 2021, 渡邉 英徳

渡邉先生は、ロシアとウクライナの戦争が始まって以降は、ウクライナの戦況を衛星写真からデジタルアーカイブしています。
先生は、どのような思いから、このように「災い」の記録の活動を続けていらっしゃるのでしょうか。
ぜひ、その思いを、講義動画でお聞きください。

<文/加藤なほ>

今回紹介した講義:記憶を未来につなぐデジタルアーカイブ 渡邉英徳先生

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