今年、2024年の夏頃から、日本では「米不足」が話題になり、ニュースでもさかんに報道されました。
スーパーマーケットなどの商店で入手しにくくなっただけでなく、値段も上がりました。
お米といえば和食には欠かせない主役の食材なので、多くの人が困ってしまいました。
今回ご紹介する講義は、そんなお米の素晴らしさを教えてくれる『和食の中心〜米と魚』です。
この講義は、2015年に開催された『農学部公開セミナー 第48回「食卓を彩る農学研究」』にて、潮秀樹(うしおひでき)先生が担当したパートです。
途中、日常で聞き慣れない薬品や化学物質の名前が登場しますが、分かりやすい図や、先生のゆったりした口調とユーモアたっぷりの説明で、楽しくご覧いただけると思います。
まず和食とは?
和食と言えば、こんなちゃぶ台で食べるイメージがあるでしょうか。
アニメの『サザエさん』でお馴染みの、昭和の食卓です。
実際にこのような食卓を大人数の全員で囲んでお食事をしているお宅は、現在、とても減っていると思われます。
このような食卓に並ぶ典型的な和食といえば、次のようなメニューが挙げられるでしょう。
「なんだ、毎日のように食べているものじゃないか」という感想を持つ人もいれば、「近頃はこんなにきちんと用意して食べていないなぁ」と感じる人もいるでしょう。
(筆者は、一番に民宿や旅館の朝ごはんを思い出しました。)
和食は、なんと、平成25年(2013年)にユネスコの無形文化遺産に登録されました。
それまで、既にフランス・地中海・メキシコ・トルコの食事が登録されており、そこに新たに加わることができました。(本講義の後には、韓国のキムチ、トルココーヒー、ジョージアのクヴェヴリなどが登録されており、2024年に新たにタイのトムヤムクンや日本酒が加わることが決定しました!)
和食については、その食材の多様さや、自然や年中行事を重んじるバックグラウンドといった特色が評価されました。
登録されたこと自体はたいへん喜ばしいことですが、決して日本中の誰もが日常的に盛んに「和食」を作って食べているわけではないのが現状です。
ちなみに、筆者は2024年度の『学術フロンティア講義「30年後の世界へ」』の収録に携わっていましたが、農学の高橋伸一郎先生の回でも、「文化遺産に指定されるということは、失われつつあるということだから、喜んでばかりもいられない」という主旨のことが述べられていて、とても記憶に残っていました。(よろしければ、そちらの動画も「食」について詳しく説明しているので、あわせてご覧ください!)
主役「お米」の強みを知ろう
さて、和食の中でも、最も中心をなしてきた食材は、お米です。
ただし、現代人の我々が食べているような白米については、庶民がなかなか口にできなかった時代もあり、ヒエやアワなど他の穀類がそのパートを担うこともあります。
お米は、その貴重さから、税として納められていた時代もあります。
しかしながら、日本人の食生活が徐々に変化していることが影響して、お米の摂取量は減ってきています。
伴って、生活習慣病は増加傾向にあります。
講義では、ここからインスリン感受性とお米との関係——すなわち糖尿病とお米を食べることの関係、またそれらを研究する実験の結果などを詳しく説明していますが、ここでは省略します。
ぜひ、講義をご覧ください。
とはいえ、お米と健康の関係、皆さんとても気になると思うので、簡単な情報だけご紹介しましょう。
まず、お米の本当の本当に栄養価が高い部分は、精米で落としてしまう部分なのだそうです。
精米では、籾殻(もみがら)や胚芽の部分を落としますから、私たちは胚乳の部分だけを食べることになります。
お米を生物としてとらえると、本来、より「生きていた」のは外側にあったものたちなので、より多くの栄養素がそちらに含まれているということになります。
私たちの食卓に届く際には取り除かれていることが多い米糠(こめぬか)ですが、これを摂取するには、いくつかの方法があります。
まずは、糠漬けです。
先生は、「昔の人というのは、当然データなどは持っていないが、経験に基づいて、分かってこういうものを食べている」と語ります。
次に、玄米。
玄米は、籾殻だけを取り除いて、糠や胚芽が残された状態です。
二日酔いになりやすい人には、玄米が良いとのことでした。
(下の写真は、「二日酔いになりやすくて困っている」と挙手してくれた人を、笑顔で歓迎しているところです。)
明日から取り入れられそうな情報のご紹介でした!
酒の肴? 「お魚」も忘れずに
その昔、日本では魚類のことを「いを」と呼んでおり、やがて「うお」に変化したといいます。
お酒を飲む際、おつまみ——つまり「酒菜(肴)」として魚を食べることが多かったため、「さかな」という発音がそのまま呼び名になったという説もあるようです。
日本やアイスランドなど、魚の消費量が多い国では、平均寿命が長いそうです。
講義では、魚に含まれる栄養素について語られますが、ここでは省略いたします。
魚には栄養があるので、中国・ヨーロッパ・アメリカなどの国々では「たくさん魚を作って食べよう」という考え方が強くなりましたが、日本では逆行して(洋食が増加して肉を食べる機会が増えたことを受けて)魚の摂取量が減ってきているようです。
皆さん、ぜひ魚をたくさん食べましょう。
塩分にご注意
和食を食べる際には、気を付けるべきことがあります。
それは、塩分の摂りすぎ。
冒頭で挙げたような典型的な日本食を3食しっかり食べると、1日あたり13gほど摂取することになるそうです。
ところが、WHOが2014年に発表した理想的な塩分の推奨量は、成人で「1日あたり5g未満」とのこと。
日本では、成人男性が平均11.4g、成人女性が平均9.6gほどの塩分を摂っているそうで、北方ではやや料理の味付けが濃くなるため、13gを超える人もいるようです。
これはWHOが示した推奨量よりもかなり多いですね。
先生がご自身で塩分を減らすことを試みたところ、限界は8〜9gだったそうです。
つまり、それよりも少ないと、やはり味気なく感じてしまうようです。
では、どうしたら健康的に和食をたくさん食べられるのか。
秘密は、「だし」にありました。
だしをしっかり取って風味を増すことによって、塩分の方を控えても味気なさを解消できるというわけですね。
塩分摂取量や栄養については、他にもUTokyo OCWに詳しい講義があるので、よろしければご覧ください。
- 紹介記事(だいふくちゃん通信):栄養ってどれくらい採れば良い?~観察と実践の疫学~
- 講義動画:2018年度開講「ワンヘルスの概念で捉える健全な社会(学術俯瞰講義)」より「第5回 栄養疫学の視点から」佐々木 敏 先生
みんなで和食を盛り上げていこう
現代社会では、みんな忙しく、家族揃ってごはんを食べる機会や、しっかりと何品も作って食べる機会が減っていっています。
しかし、先生は「食育は子どもだけの問題ではない、大人も自分のごはんを考える必要がある」と言います。
ときどきは、しっかりおだしを取って、お米やお魚の料理を食べる機会を増やし、おいしく楽しく文化遺産を守っていきましょう!
ちなみに、下の画像は、先生の前日のお夕飯のメニューで、「やっぱり塩分は少し多め」という、お茶目なお話でした。
今回のコラムでは、具体的な栄養素や糖尿病予防など化学的な説明を、(説明が長く複雑になってしまうので)省略してしまいました。
ぜひ、講義動画で詳しくご覧になって、和食に詳しくなってください。
とても分かりやすく解説されているので、心配ご無用です。
今回紹介した講義:農学部公開セミナー 第48回「食卓を彩る農学研究」 和食の中心~米と魚 潮 秀樹先生
●他の講義紹介記事はこちらから読むことができます。
<文・加藤なほ>