東京大学公開講座「成熟」
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誕生―成長―成熟―衰退・死。このサイクルは人間にあてはまるだけでなく、自然に関わるさまざまな現象に、あるいは社会そのものにもあてはまります。そのサイクルを理解することは、人間や自然、社会を考えるうえで重要なことは言うまでもありません。
そのサイクルの中で、もっとも我々の注目をひいてきたのは誕生と成長でしょう。人の誕生はもっとも劇的で、成長は希望に満ちています。あるいは社会や経済の成長は人に希望を与えてきました。そしていま注目されつつあるのは「老化」すなわち衰退の局面です。 しかしその反面で「成熟」にはあまり注目が払われてきませんでした。それは成熟が、ほかの段階と比べると、劇的な変化の少ない、いわば普通の状態であるととらえられるからでしょう。
しかし実は成熟の中にこそ、新しい発想を得るキーがあるのではないでしょうか。たしかに成熟は成長の結果であり、一方で衰退の始めでもあります。しかしその二つのはざまにある成熟の生む一つの落ち着きが、固有の力を生じさせ、そしてそれこそがやがて生じる全く新しいサイクルを形成する基盤を作るのです。他方でそれは、真の成熟に達することこそ、実はきわめて困難な課題であることをも示しています。
成熟とは何か、それが何を可能にするのか、そしてそれがなぜ難しいのか。この公開講座では、こうした視点から、人間や社会・文化、自然のあり方とその変化を考えてみたいと思います。