【地震の予測はなぜ難しいのか?】地震研究の大変さを知る
2024/04/05

先日、東京駅付近にある、KITTE丸の内の「インターメディアテク(IMT)」に遊びに行ってみました。
IMTは、日本郵便株式会社と東京大学総合研究博物館が協働で運営している展示室です。
骨格標本や剥製などがおしゃれに展示されていて、無料で見学できるので、東京駅にご用事のある方は、ぜひ足を運んでみてください。

 インターメディアテク

さて、IMTのミュージアムショップには、東京大学が提供する書籍やおみやげ品など、興味深いものがたくさん置かれています。
その中の一つに、東京大学地震研究所が東京カートグラフィック社と共同製作した、世界震源地図を立体に組み立てられるペーパークラフトの地球儀が売っていました。

 世界震源地図(英)とペンタグローブのデータを更新

この地球儀の上では、震源地が大小の赤い丸で示されています。
ためしに日本を見てみると、丸で埋め尽くされて真っ赤っかで、輪郭が見えなくなっているほどでした。
同様に赤い丸が密集している他の地域を指で辿ってみると、たしかに、大地震や火山噴火のニュースでその名を見聞きしたことがある地域ばかり。
赤い丸は海や陸の上で線状に繋がっており、プレート境界の存在をひしひしと感じました。

とてもおしゃれなグッズで、大変勉強になりましたが、少し恐ろしい気持ちにもなってきました。
どうしよう! 
我々は、赤い丸の上で暮らしている……!?

日本では、今年の初めにも大きな地震があったばかりです。
大きな地震がある度に、「もっと早く具体的な発生地や規模が予見できて、全ての被害を防げたらいいのになぁ」と考えてしまいます。
他の多くのみなさんも同じように考えていらっしゃったのでしょうか、東大TVの視聴数のランキングのページでは、今年に入ってから急に、ある動画が浮上してくるようになりました。

 東大TV 人気の講義のページ

それが、今回ご紹介する、纐纈 一起(こうけつ かずき)先生「東京大学公開講座:予測できる未来と、予測できない未来『地震の予測はなぜ難しいのか?』」(2019年)です。
これは、今まさに日本中で注目を浴びているテーマと言えるでしょう。

日本が地震国と呼ばれる理由

まずは、地震が起きるメカニズム、日本で地震が多い理由などを、分かりやすく説明してくださいます。
4つのプレートの境目が大集合しており、世界中の地震の約10%が日本で起きているそうです。

地震の基礎知識

私たちは、揺れを感じると「地震が来た!」と表現していますが、研究者たちの間では、そのような地面の震え(揺れ)のことを「地震動」と呼び分けているそうです。

(私も、これからは、揺れを感じたら「地震動を感じる!」と言った方がいいのかもしれません。)

したがって、よくニュースなどで報じられる「マグニチュード」は、先生方が使う意味での「地震」の規模を表す指標で、「震度」は、我々が感じる「地震動」の揺れの強さを表す指標、ということになります。

また、地震発生の前日や数時間前に「地震が来るぞ!」と分かることを「予知」と言い、「今後100年以内に、◯◯%の確率で大地震が来る」といった想定をすることを「長期評価」と言うそうです。

地震の研究は難しい

地震そのものは自然現象であるため、未然に防ぐことができません。

また、その規模を弱小化させることもできません。

そこで、少しでも「防災」をして被害を小さくするために、自然現象の発生の予測すること——これが、社会から強く求められている研究の成果となります。

しかしながら、地震研究は、その現象の特徴から、大変難しいとのこと。

  1. 規模が大きすぎて実験(再現)ができない:大規模な地震を観察するため、「それでは、今から数百キロに渡る広大な地域を揺らして、何が起きるか観察してみましょう」といったことは不可能で、その規模を実験室や実験施設に収めることも、もちろんできないでしょう。
  1. 再現できないので過去のデータを分析するしかないが大地震は長期的スパンで起きる:例えば、気象の分野では数分おきに大気の動きや温度などの観測データが取れますが、大地震は「安政の大地震(1850年代)」「関東大震災(1923年)」「東日本大震災(2011年)」といった間隔で起きるため、観測史上で頻繁にデータを蓄積することができません。
  1. 地震の発生源を直接観測することが難しい:地中深く、地殻・岩盤の内部に入り込んで何が起きているか直接観測することは、とても難しいでしょう。

先生は、これらの難しさを「地震の科学の三重苦」と呼んでいます。

予測に誤差が生じる

そのため、現在のところ、過去に起きた地震のデータによってある程度の予測ができても、ただちに(世間が求めるような)精度の高い予知ができるわけではありません。

実際、東日本大震災では、調査による長期評価において「あの地域である程度の規模の地震が起きる」という可能性が発表されていましたが、予測されていた2つの「領域」よりも4つ多く、6つの「領域」が同時に活動して、(ある意味で想定外の)大きな規模となってしまったそうです。

  • 予測の手法(調査や計算)
  • 世界でなされている地震研究に関する議論
  • 現在の地震予測の精度

などの詳細については、ぜひ講義動画をご覧ください。

先生のユーモラスなトークで、あっという間の46分間ですが、同時に、研究者たちが持つ、人々の「命」に対する使命感も強く感じられました。

東京大学公開講座:予測できる未来と、予測できない未来「地震の予測はなぜ難しいのか?」纐纈 一起

おわりに

東日本大震災以後、「全国地震動予測地図」では、「全国どこでも強い揺れに見舞われる可能性」という表現が導入されているそうです。

つまり、確実に安心安全な場所があるとは断言できず、私たちは、どこにいても油断せず備えていくべきなのでしょう。

1月、能登半島地震発生直後にニュース番組を見ていたら、東京大学の地震研究所の方が現地で観測装置を設置している映像が流れ、「少しでもこういった地震を研究して、防災に役立てたい」という旨のことをおっしゃっていました。
この講義を見て、改めて「研究者の方々は、日々、そのテーマに立ち向かっていらっしゃるのだなぁ」と感じました。
防災する私たちと、研究者のみなさんと——赤い丸の上に生きる者として、みんなで一緒に協力しながら、少しでも進歩してゆけたら素晴らしいですね!

今回ご紹介したこの講義は、2019年に行われた「東京大学公開講座:予測できる未来と、予測できない未来」シリーズの一つです。
他にも、様々な分野の「未来」を語る講義が収録されているので、ぜひご覧になって、ワクワクしてください!

今回紹介した講義:東京大学公開講座:予測できる未来と、予測できない未来(2019年)

また、東大TVでは、この講義の他にも、地震に関連するテーマを扱った講義が掲載されています。
ウェブサイトのHOME画面から、「地震」「災害」「防災」といったキーワードで検索してみてください。
ためになる動画に出会えること、請け合いです。

<文/加藤なほ>