【地球以外の星には生命体がいるのか?】生命の起源の謎に迫る
2024/02/14

地球以外の星には生命体がいるのか?

誰しも一度は頭に浮かんだことのあるこの問い。ですがその答えはまだ明らかになっていません。
この問いに答えが見つかる日はくるのでしょうか?
そして、いまこの問いのために、どのような取り組みがなされているのでしょうか?

「地球以外の星には生命体がいるのか」という問いを考えるには、まず「生命の起源の謎」を考える必要があります。

しかし生命の起源というテーマはあまりに難しいため、研究者はなかなか手を出すことができません。
(成果が出しにくく研究者としてのキャリアパスが描けないからです。)
そのため、生命発生のプロセスに正面から取り組む研究者は、世界的に見ても極めて少数です。

そんな中で、今回講義動画を紹介する戸谷友則先生は、宇宙論の研究をしながら、生命の起源についても探究されています。
戸谷友則先生の講義動画を視聴して、生命の起源や宇宙の生命体について考えてみませんか?

分野を横断した生命の起源の研究

生命の起源とは、つまり「非生命が生命に変わるプロセス」のことです。
この問題が難しいのは、それが物理・化学の世界と生物の世界にまたがっているからです。

戸谷先生は、研究分野として物理系と生物系は隔絶しているといいます。
生命の起源はその隔絶した分野の境界領域にあります。

生命に関しては数多くの難問があり、これまで、数多くの物理学者たちが、生命の謎に挑んできました。
(たとえば、量子力学で有名なシュレディンガーは『生命とはなにか』という著作を残しています。)
しかし、それでもなお、生命の起源にはまとまった結論が出ていないのです。

UTokyo Online Education 2020 戸谷友則

すべての生物は、ひとつの生命から生まれた

そもそも、生命とは一体なんなのでしょうか?

NASAアストロバイオロジー研究所は、生命を“self-sustaining chemical system capable of Darwinian evolution”(ダーウィン進化することができる、自立して持続可能な化学的システム)と定義しています。

自己複製して進化することができるのは、生命の重要な条件です。
生命は複製しながら進化していくため、いま地球上にいる多様な生物たちも、もとを辿れば共通の個体に行きついていきます。

それでは、生命のもとを遡りきるとどうなるのでしょうか?

戸谷先生は、いま地球上にいる全ての生命体は、たったひとつの共通祖先「LUCA(last universal common ancestor)」から進化してきたと考えられるといいます。

UTokyo Online Education 2020 戸谷友則

それはつまり、地球上で非生命から生命の誕生が1回しか起こっていないということです。
少なくとも、それが複数回起きたことを示唆する観測的な事実はありません。

非生命から生命が誕生する確率は

「地球以外の星には生命体がいるのか」

この問いに取り組むにあたっては、長い宇宙の歴史の中で「非生命から生命が誕生する確率がどれくらいか」ということを考える必要があります。
つまり、非生命から生命が誕生するという現象が頻繁に起こるのであれば、地球外生命体がいる可能性が高いし、ほとんど発生しないようであれば、その可能性は低くなるということです。

地球45億年の歴史のなかで、非生命から生命が生まれたのは最初の8億年以内と考えられています。
それは、地球の歴史のなかではかなり初期のほうであるため、その後の地球においても、生命が発生する確率は高い(期待値1以上:平均して1回以上起こる)のではないかと思えてきます。

しかし、早急に結論を出すわけにはいきません。
たまたま生命が早く誕生しただけ(1回だけの現象がたまたま初期に起こった)の可能性もあるし、原始地球の環境が生命の発生により適していたから(それ以降はそのようなことが起きる確率がぐっと下がる)かもしれないからです。

さらに、「人間原理」という考え方もあります。
人間原理では「宇宙(地球)が人間に適しているのは、そうでなければ人間は宇宙を観測できないから」というように考えます。

生命が誕生してから、人間ほどの知能を持つ生命体が生まれるまで、35億年以上もかかっています。
太陽の光度の上昇により、あと10億年もすると生命は地球に住めなくなるとも想定されているため、もし、たとえば地球ができてから45億年経った今、初めて最初の生命が誕生していたとしたら、人間ほどの知的生命体が生まれる前に、地球から生命は滅亡することになっていたでしょう。

つまり、私たちが「どうして地球の歴史の最初の時期に生命が生まれたんだろう」などと疑問に思うことすらなかったわけです。
そのような疑問を持つ私たち知的生命体が地球に存在するためには、地球の初期に生命が生まれていなければいけません。

一方で、初期に生まれて以降、1回も生命が誕生していないという事実に注目すると、むしろ生命の発生確率は低いのではないかと考えられます

先ほどの人間原理の考え方を用いると、どれだけ生命の発生確率が低かったとしても、0でさえなければ、地球に生命が生まれたこととは矛盾しません。私たち知的生命体は、必然的に自分の惑星に生命が存在することを見いだすからです。
地球のような惑星における生命の発生確率については、期待値1ぐらいに高い可能性もあるし、ほとんど期待値0に近いくらい低い可能性もあります。
(ただし1よりはるかに大きいと、「地球で生命の発生は1回だけ」という観測結果と矛盾します。)

このように歴史の視点から、いくつかの要素に着目して「非生命から生命が誕生する確率がどれくらいか」ということを考えてみましたが、なかなかまとまった答えを出すことはできません。

RNAから生命が生まれた

歴史の視点からの考察では、「地球以外の星には生命体がいるのか」という問いに一定の信頼性ある答えを出すことはできませんでした。

それでは、生物側から考察してみるとどうでしょうか?

まず、生命の起源はどのようなかたちで生まれたのかというのが、ひとつの取り組むべき問題になります。

生命を構成する重要な要素は、タンパク質DNAです。
タンパク質はDNAの遺伝情報に基づいて製造されます。つまり、タンパク質がつくられる前にDNAがなくてはいけません。
一方、そのDNAの複製にはタンパク質の酵素が必要です。つまりDNAがつくられる前にもタンパク質がなくてはいけません。
タマゴが先かニワトリが先かというような話で、タンパク質とDNA、どちらが最初にできたのかには結論が出せません。

戸谷先生は、ひとつの回答として、DNAとタンパク質の橋渡しをするRNAが最初に生まれたのではないかといいます。

生命の起源について最も有力な仮説のひとつに、RNAワールド仮説というものがあります。
それは、自己複製可能な活性を持つRNAがまず誕生し、そのあと、DNA-タンパク質ワールドに進化していったとする説です。

RNAは、いくつかの生体化学反応の触媒になります。つまり、タンパク質の酵素と同じような役割を果たしているのです。
自身が酵素になれるのであれば、タンパク質がなくとも複製を行うことが可能だと考えられます。

UTokyo Online Education 2020 戸谷友則

自己複製能力をもつRNAの長さ

ただし、RNAワールド仮説は、最初のRNAがどのように生まれたのかという問いには答えてくれません。

注目すべきは、自己複製に近い活性をもつRNAがどのようにつくられるかということです。

RNAは、ヌクレオチドという基本的な単位がつながり、長くなってできたものです。
「試験管内進化」という手法で、自己複製に近い活性をもつRNAが実験的につくられています。
その長さはおおよそヌクレオチド100~200個分(100~200nt)です。
このようにヌクレオチドがうまくつながっていき一定の長さを超えれば、できたRNAがそのまま自己複製し、生物へと進化していくかもしれません。

それでは、完全な自己複製能力をもつRNAの最小の長さは、どのくらいでしょうか。

専門家によると、25nt以下の長さのRNAは特に活性を示さないといいます。
しかし、40~60nt以上の長さにまでなれば、自己複製能力をもつRNAができる可能性があります。(Szostak ’93; Robertson+’12):

UTokyo Online Education 2020 戸谷友則

なかなかできない自己複製が可能なRNA

自己複製能力をもつRNAの長さが分かったうえで考える必要があるのは、どうすれば長鎖のRNAが合成されるかです。

ひとつ、ヌクレオチドがランダムな化学反応で連なって、自己複製能力をもつ長さまで達する可能性があります。

ただし、RNAが長鎖になるほど、それが自然に発生する確率は急激に低くなっていきます。
戸谷先生はその確率を「猿がでたらめにタイプしてシェークスピアの小説ができる確率」、「竜巻がジャンク置き場を通過してジャンボジェット機ができる確率」と例えます。

UTokyo Online Education 2020 戸谷友則


想像するだけでも非常に低い確率です。

実際に数字で確認してみましょう。

生命誕生に必要なRNAの長さがどれくらいであれば、生命になりうる活性を持つRNAがランダムな化学反応でひとつ生まれるのかを考えます。
(「生物活性をもつRNAの最小の長さ」と「その長さで活性をもつ(=特定の情報配列)RNAがランダムな化学反応でひとつ生まれるために必要な星の数」を考えます。)

ひとつの星で考えた場合、そこで生まれる活性をもつRNAは、確率的に21ntの長さにとどまります。
しかし、先ほど確認したように、自己複製が可能なRNAは、実際には少なくとも40nt以上の長さが必要だと考えられます。
任意のひとつの星でRNAが40nt以上の長さに達することはなさそうです。
それはつまり、ひとつの星をランダムに持ち出しても、そこで簡単に生命は生まれそうにないということです。

それでは、範囲を拡大させ、ひとつの銀河を考えてみるとどうでしょうか?

ひとつの銀河には10の11乗個の星があります。そこで生まれる活性をもつRNAは、確率的に27ntの長さです。
かなり範囲を拡大させたにもかかわらず、40nt以上の長さにはまだ遠く及んでいません。
ヌクレオチドの連鎖は長鎖になるほどより難しくなっていきます。

それでは、観測可能な宇宙にまで広げてみるとどうでしょうか?

観測可能な宇宙とは、宇宙誕生から現在までの138億光年で光が到達可能な距離、つまり、地球を中心とした半径138億年の宇宙領域です。
そこには、銀河系のような銀河がおよそ1000億個含まれています。星の数にして10の22乗個です。
果てしなく膨大で想像することも難しいでしょう。
ですが、観測可能な宇宙で生まれる活性を持つもつRNAは、確率的に31ntの長さです。

ここまで範囲を広げても、まだなお、自己複製が可能だと考えられる40nt以上の長さに届いていないのです。

UTokyo Online Education 2020 戸谷友則


私たちが観測可能な宇宙で生命が生まれる確率は、ほとんど0だということになります。

インフレーション宇宙論

それはつまり、地球以外の星には生命体がいないということなのでしょうか?

しかし、戸谷先生は、宇宙は「観測可能な地平線」を超えて大きく広がっているといいます。

そこで持ち出されるのが、「インフレーション宇宙論」という理論です。
この理論では、宇宙は超初期に光速を超える速さで指数関数的に膨張したと考えます。

UTokyo Online Education 2020 戸谷友則


宇宙はすさまじい速さで膨らんだため、光速では届かない範囲にまで広がっています。

宇宙の観測結果からみると、インフレーションでできた真の宇宙の大きさは、観測可能な宇宙と比べて、少なくとも10の26乗倍(体積にして10の100乗倍)ほど広がっていると思われ、そこに含まれる星の数は10の100乗個にのぼります。(観測可能な宇宙では10の22乗個でした。)
また、より宇宙が広がり、多くの星が含まれている可能性も十分にあります。

40ntの活性を持つRNAが生まれるには、10の39乗個の星が必要だと考えられます。
真の宇宙には、それを大きく超える数の星が存在します。
真の宇宙の大きさを想定すれば、生命を宿す星は数多くあると考えられるのです。

地球外生命体には出会えない?

戸谷先生は、インフレーション宇宙の大きさを考えると、生命はランダムな化学反応で多数発生していてもおかしくないと述べます。

しかし、観測可能な宇宙で生命体が生まれる可能性はとても低そうだということがわかりました。
戸谷先生は、地球外生命体を見つけられることはないだろうといいます。
宇宙にロマンをもつ方には、残念な話かもしれません。

ただし、地球の生命と同じ起源をもつ生命体がみつかる可能性はあります。
微生物が隕石に乗って、惑星や恒星の間を移動することもあると考えられるからです。
もしくは、未知のプロセスがあり、ランダムな化学反応より遥かに高い効率で生命が発生している可能性もあります。
この場合、生命が発生する確率は、これまで確認してきたものよりもかなり高いものになります。

ただし、戸谷先生はこの可能性に否定的な態度をとっています。

なぜなら、私たちが地球外生命体を発見できたとすれば、地球のような惑星の大半に生命がいることになるからです。
つまり、生命発生の期待値がほぼ1ということになります。
(これは、1より遥かに大きいと地球で生命が一度しか発生していないことと矛盾します。)
これまで見てきたように、生命発生の期待値には、ほぼ無限の振れ幅があります。
そこで期待値がちょうど1ほどになる必然的な理由は、まったくありません。

もし仮にランダムな化学反応より効率的なプロセスで生命が発生していたとしても、私たちが見つけられる範囲にほかの生命体がいる可能性は、決して高くはないのです。

「高校生と大学生のための金曜講座」で学ぶ

今回紹介したのは、戸谷友則先生による講義『宇宙における生命:命の星はいくつあるのか?』でした。

講義は「高校生と大学生のための金曜講座」というオムニバス講座で開講されたものです。
「高校生と大学生のための金曜特別講座」とは、東京大学が高校生と大学生を対象に2002年より公開している講座のことです。

(ウェブサイトはこちら

ここでは、東京大学のさまざまな分野の先生方が、学問研究の魅力を分かりやすく伝えています。

東大TVでは、過去に開催された金曜講座の動画を数多く公開しています。
対象となっている高校生や大学生はもちろん、大人の方にも視聴いただける、分かりやすい講義になっています。

たとえば、紹介した戸谷先生と同じ2020年度に開講されたのは次の講義です。

「離散力学系の不思議な構造」ウィロックス ラルフ先生

「超すごい顕微鏡で生きた細胞を視る」岡田 康志先生

「くすりと社会」桝田 祥子先生

「新型コロナウイルス感染症対策から考える行政権力の問題」國分 功一郎先生

「認知モードの言語間比較」渡邊 淳也先生

「地域活性化を考える:産業立地の視点から」鎌倉 夏来先生

「新型コロナウイルス感染症:東大の基礎研究から生まれた治療薬の種」井上 純一郎先生

「光と物質の新たな出会い:光科学の最前線への招待」五神 真先生

きっとみなさんの興味のある分野の講義動画もあるはずです。
ぜひサイトを眺めて、いろいろな動画を探してみてください。

<文/竹村直也(東京大学学生サポーター)>