2006年度開講
東京大学公開講座「特異」
法における「特異」の位置
井上 達夫
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民事法・刑事法等の分野で責任能力や過失認定などの基準を設定する場合には、法は「平均人」をモデルにした人間像を前提にしている。他方、個の尊厳や幸福追求権を謳う憲法は、人々がそれぞれ他者とは異なった「個性的な生き方」を追求することを人権として保障している。また、法は紛争処理において判断基準の定型化を志向する一方で、事案の特殊性を考慮した具体的妥当性の確保も「衡平」の名で要請している。本講演では、法と「特異なもの」とのこのような両面的・両義的関係をどのように理解し評価すればよいかについて、若干の考察を加えてみたい。
I 「特異」を排除する法
(1) 過失責任における平均人モデル
(2) 損害賠償額算定基準の定型化
(3) 猥褻性判断における正常人モデル
2 「特異」を包容する法
(1) 憲法における「個人の尊厳」の基幹的位置
(2) 立憲主義的人権保障システムー「立憲民主国家」であることの意味
(3) 憲法の理念と現実のギャップ
3 排除さるべき「特異」と包容さるべき「特異」の識別原理
(1) 法の内在的理念としての正義
(2) 実践的練習問題
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