2006年度開講
東京大学公開講座「力<チカラ>」
開講にあたって
井上 正仁
動画
「知は力なり」とは、十六世紀末にイングランドの哲学者、フランシス・ベーコンが口にした言葉です。この発言から四百年がすぎたいま、知の担い手である大学ほど、世に流布するイメージでは、「力」と遠いものはありません。 しかし、この「力」とはいったい何でしょうか。分子の運動から、身体のはたらき、人と人との交渉、さらには国際紛争まで、この現実世界は、すべての場面で、さまざまな「力」の交錯によってなりたっています。地震で大地が揺れるようすや、身体の運動や、武器の数量はいちおう目に見えますが、その背後にある、力のはたらきは、なかなか見えるものではありません。
目に見える現象を、ただ追いかけて眺めるだけなら、それは誰もができることでしょう。単なる報道や評論と学問との違いは、ここにかかわります。現実の裏にある力の流れや、あるいは大きすぎ、あるいは小さすぎて観察至難な力の働きについて、解明し、その制御を考えることは、人文科学・社会科学・自然科学を通じて、学問の「知の力」にこそ任された課題です。
今回の公開講座では、自然と社会と文化、すべての領域に遍在し、ものごとを動かしている「力」というものについて、文系・理系を通じた多くの学問分野から、解明を試みます。東京大学の創立百三十周年にふさわしく、大学の総合知を示す格好のテーマによって、わたくしどもの達成したところを、ひろく一般の方々に供したいと思います。
講師紹介