「わあ、カタツムリいたあ!」
「ツンツンしようぜ!ツンツン!」
「おおっ目を引っ込めた!もう一回やろう!」
「ははっまた引っ込めた!面白いな!」
いまはあまり見なくなった光景かもしれませんが、子供の頃にあのカタツムリのにょきっとした目の部分をつんつんして遊んでいた記憶のある方も多いのではないでしょうか?

カタツムリにはかわいそうですが、人間は尖っているものを見たらついつい触りたくなってしまうのかもしれません。
他にも、削りたての鉛筆を指先につんつんしたり、ウニを見たら危ないのに触ってみようとしたり、いぼができたら気になって取ってみたくなったり…。とにかく人間は突起というものに興味を持ってしまう生き物のように思えます。
と、そろそろ「何の話やねん!」というツッコミが聞こえてきそうですが、今回の記事は、そんな尖っている点をはじめとした、何やら周りと様子の違った風変わりな点にまつわる数学のお話です。
数学!?と聞いて腰がひけたそこのあなた!今回の話では難しい数学の話は一切出てきませんし、この記事では丁寧な講義をさらにかいつまんでご説明いたします。まあ、だまされたと思って気楽に聞いてくださいな。
今回は、風変わりな点=特異点をめぐる数学を、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の伊藤由佳理先生の分かりやすい講義とともに、一緒に学んでいきましょう!
そもそも、特異点って何?
「特異点」ーあまり聞き馴染みのない言葉ですが、何を指すのでしょうか?
もし宇宙に詳しい方であれば、ブラックホールは時空の特異点であるということは聞いたことがあるかもしれません。また、近い将来起こるとされるAIが人間の能力を大幅に超える時点のことをシンギュラリティ(技術的特異点)と呼ぶことをご存知の方もいるかもしれません。いずれにせよ、その周囲(前後)とは大幅に様子が異なる点のことを特異点と呼んでいるようです。
そこまで難しく考えなくても、実は日常においても特異点というのはよく現れていると、伊藤先生は言います。例えば、折り紙。折り紙を折った時にできる角の部分は、他の部分と違って尖っており、特異点です。名古屋にあったオブジェ「飛翔」も先端が尖っており、特異点といえます。他にも先ほど言ったビッグバンや、MRIで見るときの腫瘍なんかも特異点と呼ばれるようです。まあ、たしかに周りと様子が違いそうですよね!
しかし、このままでは特異点の定義がはっきりしないため、数学で扱うことはできません。実は特異点に対しては数学的に明確な定義を与えることができます。その定義を以下に示しますが、意味は分からなくて大丈夫です!大事なのは、特異点とはあやふやな点ではなく、数学的に明確な定義された点であるということです。「ふーん、一応定義されてるんだな」くらいに思ってくだされば、大丈夫です。
この定義に則ると、これらのグラフは原点に特異点を持っていることが計算することで分かります。詳しい計算はぜひ講義動画の方をご覧ください。大雑把には、グラフを描いたときに尖っている点や交わっている点が特異点と呼ばれます。
特異点を解消する
これまで特異点とはどういうものかを見てきましたが、実は特異点は「厄介者」であることが多いようです。
特異点は尖っている点や交わっている点など、いわば流れをスムーズに繋げることができない点であり、それゆえ、例えばロボットの学習過程でも特異点が現れると学習がスムーズに行えないなど、特異点が存在することによるデメリットがある場合があります。
そんなときに役立つのが、これからお話しする、特異点解消です。これはその名の通り「特異点があるのなら、それを消してしまおう!」という取り組みなのですが、その中でも講義でも取り上げられているブローアップ(爆発)について見ていきましょう。
ブローアップとは、特異点を無理やり広げることで特異点を解消しようとするやり方のことです。言葉で言われてもいまいち分からないので、イメージを掴むために図を描いてみます。
下図の左側は先ほども見たグラフの交点となっている特異点についてのブローアップです。どうやら慣習として上から下に矢印を書いているようですが、読み方としては下から上に読んだ方がわかりやすいです。グラフは二次元ですが、これが実は三次元のグラフを上から見たものだと考えてみましょう。つまり、立体交差の道路を上から見たときのように、実際には交わっていなくても交わっているように見えると思います。この場合は、グラフに高さ方向の次元を足してあげることで特異点を解消することができます。
別の例も見てみましょう。下図の右側では砂時計のように中間が絞られて特異点となっている図形を、ブローアップにより円柱状にしています。この場合は、特異点を無理やり広げるような操作により特異点解消を行っています。
こんなやり方で特異点を解消して意味があるのか分からない!という方も多いと思いますが、どうやら解消するといろいろといいことがあるようです。
物理に現れる特異点
ここまで特異点の話をしてきましたが、完全に数学の話で夢物語のような気もします。しかし、実は特異点というのはこの世界の法則を記述する学問、物理学とも関係しているのです。少しその世界も覗いてみましょう。
記事の最初の方でも少し出てきたブラックホールは、物理に出てくる特異点の代表例です。ブラックホールとは、重力が強すぎて光ですら逃げられない天体のことで、中心は密度無限大の特異点になっていると考えられています。もちろんブラックホールはフィクションの話ではなく実際にこの世界に存在しているため、特異点もこの世界に存在していることになります。
またこの宇宙の始まり、ビッグバンも実は特異点です。現在の宇宙は膨張しているのですが、それはすなわち遡っていけば宇宙の大きさがゼロになる時期があったことを意味します。大きさがゼロということは点ということ…これも特異点と言えますね。
あとはこの世界を記述すると予想されている超弦理論においても実際に特異点が出てきて、数学的な手法である特異点解消を用いるようですが、非常に高度でなかなか実感がもてませんね笑。
とにかく、特異点というのはこの世界にも存在しており、もしかしたら特異点解消を使えばこれらの特異点を消してうまくいくことがあるのかもしれないということです!
終わりに
今回は数学者である伊藤先生の研究されている、特異点およびその解消についてご紹介しました。「全然分からなかった!」「いや、少しは分かったかな」感想はさまざまかと思いますが、少しでも雰囲気を感じ取っていただければ嬉しいです。興味を持った方は、ぜひ講義動画の方をご覧ください!
<文/近藤圭悟(東京大学学生サポーター)>
今回紹介した講義:高校生と大学生のための金曜特別講座(2021年度) 美しい数学入門―特異点の謎に迫る 伊藤 由佳理先生



